最近読んだ中から一冊。
あらすじ
生まれつき喜怒哀楽あらゆる感情を持たない主人公は
警備の職に就いた砂漠の遺跡発掘現場で旅賊の女性と出会う。
そして同時に数百年の眠りから目覚めた戦闘機械がその場にいたすべての人間を殺戮した。
以来、過去と未来が干渉し合う不思議な時空で、主人公と殺戮機械の戦いと
旅賊の女性との邂逅が繰り返されていく…。
SF小説です。
普段はほとんど読まないジャンルですが、
数年前に友人が好きな作家ということで興味を惹かれ購入した後、
序盤だけ読んで積み本と化していたのを気が向いたので再び手に取ってみました。
淡々とした三人称の文体でありながら世界の有様ごと変容する大胆な展開で、
最初こそ固い文章をも読み辛くも感じていたのですが
感覚と空間、感情と時間に対する独自の解釈・理論が登場人物間で交わされたり、
読み進めるほどに興味深く先へ先へと頁を捲っていました。
『視覚や聴覚などの五感は、空間に対して自分の位置を投射する。
外界に物が見え、聞こえるというのはいわば錯覚なんだ。
実際は網膜上の感覚であり、音は鼓膜で発生しているに過ぎない。
それを、膜ではない外界に物が見え、耳の外の音源から音が出ているとわかるのは、
その感覚刺激を外界に投影するからだ。』
『感情というのは五感と違う。空間ではなく時間へ自己を投射するものじゃないか?
愛するものを失って悲しいというのは、過去の記憶を未来へ投射することができなくなり、
自己のポジションが不安定になる、という状態だ。ちがうか?』
そんな話に興味を惹かれたら、手に取ってみると面白いかもしれません。